タイトル
     2023 年度 通年  医学部 医学科 日英区分 :日本語 
  
医の倫理学   
時間割コード ナンバリング 科目分野
MB1013 MB-1-HS1010-J  
担当教員(ローマ字表記)
  服部 健司 [Hattori Kenji], 森 禎徳 [Mori Yoshinori]
対象学生 対象年次 単位数
  1年次 ~ 2年次 6
授業の目的  
より望ましい医療とは何かを多角的に考えながら他者と積極的に対話を重ね協働することができるようになるため、人文・社会科学的知や大いなる常識を身につけ、自分自身のみならず人間、社会、科学に対する反省的な思考力や感性を磨くために、この授業は行われる。
 
授業の到達目標  
多角的かつ具体的に考える力と文学的想像力、対話-協働能力、問題発見-解決能力を、医師になろうとする者に求められる水準にまで高めること。

当科目が関わりをもつコンピテンシーを枚挙すると、以下の通りになる。
自分の課題を把握し、解決に取り組む姿勢を持つ。(医A1)
他者からの評価を謙虚に受け止めることができる。 (医A3)
自らの限界を知り、必要な時に援助を求めることができる。(医A4)
こまやかな心遣いをもって他者に接しているかをふりかえる姿勢を持つ。(医A5)
人間と社会にかかわる知を広く学ぶ姿勢をもつ。(医B4)
様々な領域の知を横断的に関連づけ、総合することができる。(医B4)
礼節(服装、態度、言葉遣い、時間厳守等)をわきまえている。 (医C1)
患者・家族、医療スタッフとの円滑な意思疎通と、信頼関係の構築に努めることができる。 (医C2)
異なる価値観・考えに耳を傾け、理解しようと努めることができる。 (医C3)
心理的洞察力や言語表現能力の向上に努め、他者の言語的・非言語的表現を総合的に解釈することができる。 (医C4)
患者・家族の個別の状況やニーズを汲み、わかりやすく適切な言葉を用いて説明することができる。 (医C5)
コミュニケーションを深めようとするあまり相手のプライバシーを侵害することのないように気を配ることができる。 (医C6)
患者・家族や医療スタッフとの日々の対話を通して、患者に対する理解を深めるよう努めることができる。 (医D2)
医療が適正に行われているかを評価するために、チーム内外のさまざまな立場の医療者が意見を交換することの重要性を理解している。 (医D3)
必要に応じて慣行や常識に疑問を呈し、チームの中での話し合いを提案できる。 (医D4)
患者と信頼関係を結ぶように努めることができる。 (医E1)
患者およびその家族の秘密を守り、医師の義務や倫理指針を遵守する。(医E2)
地域医療の現状および課題を理解する。 (医F1)
保健・医療・福祉・介護に関わる制度を理解し、諸機関と連携・協力する。 (医F4)

ただし新入生対象の授業であるから、患者・家族・同僚を同級生や教員と読み替えていただくとよいでしょう。
 
ディプロマポリシーとの関連(評価の観点)  
A:諸科学についての基礎的知識と理解 〇
B:論理的・創造的思考力 ◎
C:コミュニケーション能力(医C) ◎
D:社会的倫理観・国際性 ○
E:自己省察力(医A) ◎
F:知識の獲得と知識を応用する力(医B)◎
G:チーム医療の中で協働する力(医D)◎
H:基本的な総合診療能力(医E) ー
I:地域医療の向上に貢献する能力(医F)△
J:医学研究を遂行する能力(医G)△
K:自己研鑽(医H) ○
 
授業概要  
この教科は、医学部医学科の教育プログラムにおいては数少ない人文・社会科学系の科目です。目的・目標・評価については医学系の諸科目とは大きく異なっています。
主体的に自分で問いを見つけ出し、考え、同級生や教員との対話を通して、自分の考えを再検討し、より望ましい答えを作りあげていくプロセスが、この授業の中心になります。座学による知識の習得・蓄積を柱としていませんので、教員の話をただノートに書きとめ暗記するだけでは不十分です。
より望ましい答えは、どこかにあらかじめ用意されているものではありません。まして担当教員の考えや価値観が正解を決定することなどありませんし、もっと言えば、教員の個人的な思想や信条が授業中に提示されることもありません。対話の主体は学生であって、教員はファシリテーター(進行役・餅つきの返し手)です。この授業では、学生参加型の臨床倫理ケーススタディが中心になります。したがって、学生のみなさん取り組み方によって授業の質が大きく左右されることになります。
この授業を履修する学生のほとんどが臨床医志向ですので、遺伝子操作やヒト胚利用などのいわゆる生命倫理(bioethics)で扱われるドラスティックな主題は扱いません。それよりむしろ、臨床現場で直面することになるような、一見些細でとるにたらないようにみえる、ささやかな出来事、日常的な光景に隠されがちな問題を重要視したいと思っています。臨床現場にはキョーカショ的な空理空論で対処できない問題があまりに多いからです。受験のために勉強して得た知識や体裁のよい一般論をそのまま適用してみても、大して役には立ちません。
 臨床現場で向き合うことになるのは生身の人間であって、人体ではありません。だから、医科学という狭い専門領域にとどまらず、視角を広げて、人間や社会に対して関心を向けていただく時間になります。
 
授業の形式(授業方法)  
講義の回も用意されてはいますが、上に述べたように、学生参加・熟議(deliberation)型のケーススタディが中心になります。熟議を実りゆたかなものにするために必須の要件は4つ。教科書を熟読・再読すること。授業時間内での意見交換に積極的に参加すること。授業中に交わされる対話の中に含まれる大切なポイントをのがさずにノートにとること。授業を振り返りながら、考察を深めること。この4つのいずれかでも欠けると学習効果は薄くなります。
 
授業スケジュール  
1-2  4月10日 ガイダンス「医の倫理学を学ぶ意味・学び方」
3-4  4月17日 クリニカル・シアター
5-6  4月24日 生-政治学 (フーコー) 
7-8  5月8日  ケーススタディ
9-10  5月15日 ケーススタディ
11-12 5月22日 クリニカル・シアター
13-14 5月29日 ケーススタディ(原敬)
15-16 6月5日  ケーススタディ
17-18 6月12日 ケーススタディ
19-20 6月19日 クリニカル・シアター
21-22 6月26日 小説を読む
23-24 7月3日  小説を読む
25-26 7月10日 ケーススタディ
27-28 7月24日 教科書理解度試験
29-30 7月31日 ケーススタディ
    
31-32 10月2日  臨床倫理の方法論
33-34 10月16日 臨床倫理の方法論
35-36 10月23日 臨床倫理の方法論
37-38 10月30日 ケーススタディ
39-40 11月6日  ケーススタディ
41-42 11月13日 ケーススタディ
43-44 11月20日 クリニカル・シアター
45-46 11月27日 ケーススタディ(原敬)
47-48 12月4日  ケーススタディ
49-50 12月11日 クリニカル・シアター
51-52 12月18日 ケーススタディ試験
53-54 12月25日 ケーススタディ
55-56 1月15日  クリニカル・シアター
57-58 1月22日  ケーススタディ (徳永純)
59-60 1月29日  ケーススタディ

教室は全回、基礎大講堂。担当者は特に記名がないかぎり服部健司・森禎徳。
履修学生の理解度・授業の進度・非常勤講師の本務(診療)等によって授業内容・日程を変更する必要が出てくることも考えられます。
更新作業が容易な GULMS の当該サイトで確認していただけます(当シラバスとGULMSとで記述が異なる場合、後者が正確・最新版です)。
 
授業時間外学修情報
「学修」とは授業と授業時間外の予習・復習などを含む概念です。1単位につき45時間の学修が必要です。
学則で定められている1単位の時間数は次のとおりです。
講義・演習    授業15~30時間、授業時間外30~15時間
実験・実習・実技
 
ケーススタディが授業の柱になります。ケースを読み解き豊かに考えるためには教科書レベルの事柄を事前に学んでおいていただく必要があります。限られた授業時間内に教員が教科書全編の解説をすることはできませんので、自分自身で教科書を熟読・再読してください。
 
成績評価基準(授業評価方法) 及び 関連するディプロマポリシー  
①教科書理解度テスト(7月24日; 再試験8月21日の週(予定)) 到達目標 医B4 医C3 医D4 (A・B・F)
②夏期レポート(10月) 到達目標 医C4 (A・B・E)
③ケーススタディテスト(12月18日) 到達目標 医C2・4・5・6 医D2 (C・E・G)

①(7月24日)が40点未満の場合は前期再試験週内(8月21日の週(予定))に教科書理解度試験の再試験を受けることになります。その対象にならない学生は①(7月24日)の点数が①の最終点となり、教科書理解度再試験を受けた場合には再試験の点数(最高60点)が①の最終点となります。
①~③の平均点が60点未満の場合、あるいは①~③の平均点が60点以上であっても①の再試験、②、③のいずれかが40点未満の場合に、学年末再試験受験対象者となります。

学年末再試験は以下の4要素からなる総合問題であり、4時間かけて実施される。
1)教科書理解度問題(25点)2)授業理解度問題(25点)3)小説読解問題(30点)4)ケーススタディ問題(20点)
から構成される。
学年末再試験は60点以上をもって合格とし、その際いかに高得点であっても評価は「C」となる。ただし、1~4)の合計点が60点以上であっても、いずれかの要素が著しく低得点であった場合は不合格とする。再々試験は実施しない。

レポート・試験の採点基準:
 自分の意見をただ言い放つだけのもの、あるいはその正当化を急ぎ、問いそのものの奥行きをさぐろうとしないもの-たとえそれがどんなに言葉巧みでも-には、高い評価はつかない。他人の説の単なる要約紹介、引用に尽きるものについては-それがどれほどの読書量に支えられ、またどれほど多量の文字が綴られていても-最低点である。授業と関わりのないリアクションペーパーの評価も最低となる。
 問いをわがことにひきつけているもの、私見にむけられるだろう反論を予想してそれに再び応答しようともがいているもの、自分の思考のすじみちの穴と飛躍、一面性に気づいてそれを埋めようと苦しんだ跡のあるもの、書くことによって自分の内から未知のなにかをひきだそうと、あるいは自分自身のあり方そのものを越えてゆこうとしているもの、には最高点が与えられるだろう。

評価着眼項目:
p 授業の理解の的確さ q 思考や論述の論理性と厚み r 視角の広さと批判的反省的姿勢 s 切込みの独創性・感性の鋭さ
t 対人関係能力や、他者の心情を想像する能力

より一層具体的にあらわした採点ポイント:
A.高得点要素
ユニークな視点 創造的 洞察力に富む 刺激的 探究・挑戦的
横断・綜合的 建設的 問題を浮き彫りにしている 批判的(自説の源泉・範囲・限界に自覚的)  
受け売りでない 他の立場を顧慮 反論を予想しこれに応答
B.低得点要素
受け売り 考えたフリしてる見せかけレベル なになには問題であるというだけで探究しようとしていない
教科書レベルの理解が示されていない 自説の開陳に終始 自説の根拠を示さない 対立する観点を顧慮していない
C.最低得点要素
視角がかなり狭い 抽象的・図式的にしか考えていない 叙述の展開に論理性が不足・欠落  文が迷走・飛躍  
教科書レベルの事項を誤解している 独断的な言いっ放し 主題・問題から逸れた方向に展開
記述が短いか内容が薄く乏しい 自分の頭で考えていない 日本語表現・文法が乱れている


 
受講条件(履修資格)  
医学科1年生、医学科2年次編入生
 
メッセージ  
この授業では知識量は問われません。知識の伝達を目標としてもいません。ここでは、モラル・センスをみがき合うことと、批判的・反省的に考える修練をつむことに最上の価値がおかれます。ここでいうモラル・センスは、「ある社会のなかで通用している、既存の規則や価値観、権威による指示からはみださないように生きる従順さ」を意味しません。むしろ、日常の中であまりに当たり前すぎ目につくためにかえって見のがされてそれとは気づかれないままでいる倫理問題に気がつく、問題発見的な感受性のことです。それは文学的感性と深く関わり合います。あなたがたの感受性に〈ゆさぶり〉をかけ、自分の知性や価値観への高校生的な素朴な肯定感覚を挫くことがこの授業の第一段階です。その先に、他者をまさに異他なる者として認めてむき合いつづけること、対話しつづけることをあなたがたに求めます。
 その際、何割かのひとは過度に不安になり、一部のひと(例年1-2割くらいか)は教員や授業そのものに反発して「自分を守ろう」とするでしょう。けれども、どうか、これまでの自分の殻をいったん脱ぎ壊すときのいっときの不安に耐えてほしい。海辺のあの小さなヤドカリのように。教員は、医師になろうとするあなたがたに、この科目に対して正面からのまっとうな取り組みを求めています。四苦八苦してなんとか単位を修得した一部の先輩は、新入生にこの科目の受かり方を伝授して得意になるきらいがあります。一方、まっとうに取り組み、力をみずから身につけてゆうゆうと最低限の課題水準をクリアした先輩はそうした悪しき「パターナリズム」を手控えるはずです。用心してください。
 みなさんにおすすめしたいのは、まず教科書を早い段階で通読、熟読することです。指定した教科書は、暗記用でなくて、思考力と感性を磨き上げるために編まれています。書かれていることがらを鵜呑みにせずに、疑問をもち、よく考えながら読んでください。過去の出題傾向をふまえて定型解法パターンを覚え習熟することで入試を通過した学生、とりわけ国語の成績がかんばしくなかった学生、教科書・参考書以外の本を読まない学生のみなさんは、学び方の変更を早めにしてください。(服部)
 ある調査によると、「患者と十分な対話ができている」と考えている医師は約57%、「患者が質問しやすい雰囲気を心がけている」と考えている医師は65%以上に達する一方で、「医師と十分な対話ができている」と考えている患者は約34%、「医師は質問しやすい雰囲気を心がけている」と考えている患者は約31%しかいませんでした。
 医師の多くが自分のコミュニケーション能力を過剰に高く評価している一方で、多くの患者が医師とのコミュニケーションに不満を抱いている状況を、医師を目指す皆さんはどう考えるでしょうか。どれほど豊富な知識やすぐれた技量を持っていたとしても、目の前にいる患者の心情をくみ取ることができずに自己満足に浸っている医師は、少なくとも患者の眼から見て「よい医師」とは言えないのではないでしょうか。
 この授業は、人体の構造の把握や医療技術の向上ではなく、医師は目の前にいる患者といかに向き合えばよいのか、といった「知識・技術以前」の問いを考える場です。患者は一人ひとり異なる人生、異なる価値観の持ち主であり、それぞれに異なる苦痛や不安を抱えているでしょう。そのように一人ひとり異なる患者といかに向き合うのか、という問いに答えるためには、個々の患者、個々の症例に目を向けなければなりません。だからこの授業では、「ケーススタディ」が中心になるのです。
 皆さんはさまざまなケースに触れることで、人間の生き方や価値観の多様性を知るまたとない機会を得ることになります。一方、だれ一人として同じ人間がおらず、どれ一つとして同じケースがない以上、あらゆるケースに共通の「唯一絶対の正解」をあらかじめ決めることはだれにもできません。皆さんは一つひとつのケースに対し、そのケース、その患者にとって最適な答えを模索し、作り上げていくしかないのです。
 ケーススタディでは、まず自分自身で考えて答えを作り出すことが求められます。ただし、この授業の学びはそこで終わりではありません。それぞれが教科書や教員の助言、同級生の意見を参考にしながら自分が出した答えを再検討し、より患者にとって望ましい答えをみんなで作り上げていくプロセスこそ、この授業のもっとも重要な要素です。このプロセスを繰り返すことで、自分の視野を広げ、自分のすぐれた点と未熟な点を発見してください。そして、長所を伸ばし短所を克服しようと努力することで、「よい医師」になることを目指してください。(森)
 
キーワード  
人間の可能性と有限性, 自由と責任(呼-応可能性 responsibility),価値の多様, 他者 stranger としての患者,傷つきやすさ/傷つけやすさ vulnerability,社会的行為としての医療, アクティブ・ラーニング
 
この授業の基礎となる科目  
中学・高校で国語の成績がふるわなかった学生は、早期に中学生向け国語ドリルなどで、受験テクニック以前の母語運用能力をみがき直しておくことをおすすめします。一人ひとりのレベルが違う上、授業時間数が限られているので、正課のなかで一人ひとりの(評論文および小説の)読解能力・作文能力を個別指導することはできません。たとえ答案を開示し減点箇所を説明したところで、母語運用能力が突如のびることはありえません。その基礎的修練には長い時間が必要なので、留意してください。母語教育に焦点をしぼった学びのリテラシー(1)、「医系の国語表現」に、しっかり取り組んでください。
 
次に履修が望まれる科目  
 
関連授業科目  
学びのリテラシー(1)
医系の国語表現
シェイクスピアを読む
哲学
倫理学入門
現代ドイツ哲学
ヤスパースを読む
論理学入門
 
教科書  
教科書1 ISBN 9784839216351
書名 医療倫理学のABC : a core text for health care ethics 第4版
著者名 服部健司・伊東隆雄 (編著) 出版社 メヂカルフレンド社 出版年 2018
備考
 
参考書  
 
教科書・参考書に関する補足情報  
 
コース管理システム(Moodle)へのリンク  
https://mdl.media.gunma-u.ac.jp/course/view.php?id=1039
 
授業言語  
 
学生用連絡先  
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学生用メールアドレス  
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オフィスアワー (※教員が研究室に在室し、学生からの質問・相談等に応じる時間のことです。)  
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教員ホームページ  
http://www.med-philosophy.sakura.ne.jp/
 
関連ホームページ  
 
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