より望ましい医療とは何かを多角的に考えながら他者と積極的に対話を重ね協働することができるようになるため、人文・社会科学的知や大いなる常識を身につけ、自分自身のみならず人間、社会、科学に対する反省的な思考力や感性を磨くために、この授業は行われる。
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多角的かつ具体的に考える力と文学的想像力、対話-協働能力、問題発見-解決能力を、医師に求められる水準にまで、高めることが、到達目標である。
当科目が関わりをもつコンピテンシーを枚挙すると、以下の通りになる。 自分の課題を把握し、解決に取り組む姿勢を持つ。(A1) 自分の長所をみつけ、それを生かす姿勢を持つ。 (A2) 他者からの評価を謙虚に受け止めることができる。 (A3) 自らの限界を知り、必要な時に援助を求めることができる。(A4) こまやかな心遣いをもって他者に接しているかをふりかえる姿勢を持つ。(A5) 人間と社会にかかわる知を広く学ぶ姿勢をもつ。(B4) 様々な領域の知を横断的に関連づけ、総合することができる。(B4) 礼節(服装、態度、言葉遣い、時間厳守等)をわきまえている。 (C1) 患者・家族、医療スタッフとの円滑な意思疎通と、信頼関係の構築に努めることができる。 (C2) 異なる価値観・考えに耳を傾け、理解しようと努めることができる。 (C3) 心理的洞察力や言語表現能力の向上に努め、他者の言語的・非言語的表現を総合的に解釈することができる。 (C4) 患者・家族の個別の状況やニーズを汲み、わかりやすく適切な言葉を用いて説明することができる。 (C5) コミュニケーションを深めようとするあまり相手のプライバシーを侵害することのないように気を配ることができる。 (C6) 専門職連携を行なうことができる。 (D1) 患者・家族や医療スタッフとの日々の対話を通して、患者に対する理解を深めるよう努めることができる。 (D2) 医療が適正に行われているかを評価するために、チーム内外のさまざまな立場の医療者が意見を交換することの重要性を理解している。 (D3) 必要に応じて慣行や常識に疑問を呈し、チームの中での話し合いを提案できる。 (D4) 医療チームにおける医師の責任の重要性を意識し、行動できる。 (D5) 患者と信頼関係を結ぶように努めることができる。 (E1) 患者およびその家族の秘密を守り、医師の義務や倫理指針を遵守する。(E2) 基本的な医療面接を行なうことができる。 (E3) 医療情報を適切に管理することができる。(E10) 地域医療の現状および課題を理解する。 (F1) 保健・医療・福祉・介護に関わる制度を理解し、諸機関と連携・協力する。 (F4)
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医学科のディプロマポリシーの、1,2と関連している。 コンピテンシーとの関連性は以下の通り。 A:諸科学についての基礎的知識と理解 B:論理的・創造的思考力 C:コミュニケーション能力 ◎ D:社会的倫理観・国際性 E:自己省察力 ◎ F:知識の獲得と知識を応用する力◎ G:チーム医療の中で協働する力◎ H:基本的な総合診療能力 I:地域医療の向上に貢献する能力△ J:医学研究を遂行する能力△ K:自己研鑽
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この授業では、脳死・臓器移植、遺伝子操作、ヒト胚利用などのドラスティックな主題はほとんど扱われない。それよりむしろ、より小さい些細な、とるにたらないようにみえる、ささやかな出来事、日常的問題を重要視したいと思っている。 「医の倫理」と聞いて、ヒューマンで高邁な〈医の心〉についての教説的で儀式的な時間だろうと想像している人、あるいはインフォームド・コンセント、なになに宣言、患者の権利の話だと早合点する人のために、この授業は用意されている。医療現場にはキョーカショ的な空論で対処できない現実問題があまりに多い。それに〈絶対にゆるぎなく正しい医の規範〉など、かつてもなかったし、またこれからもないだろう。ぼくたちには、それにすがりついて「自分のしていることは倫理的だ」と安んじていられるようなマニュアルなど与えられていないのだ。そもそも、受験のために勉強して得た知識や体裁のよい一般論は捨ててほしい。では、どうしたらいいのか。―そのための90時間である。 方法的には、ケース・スタディを多用する。他面、この授業は小グループ単位でのきみたちの発表を主軸とする。よって、きみたちの身の丈ほどの授業が展開されることになる。が、この国の「医の倫理」教育の平均的水準をかるく抜き去る授業がおこなわれる。しかし、いわゆる「医の倫理」という氷山の上だけでものを考えて、いったい何が得られるだろうか。当然のこととして倫理学そのものの根本的問いへの通路は確保したい。しかし古典的な倫理学におさまり居直るつもりもない。今日、倫理学はむしろ政治学や社会学によって鍛え直されている。こうした人文・社会科学における議論の練りあげと蓄積とを視角におくことで、ようやくかろうじてこの授業は、医の倫理〈学〉という看板をかかげることをゆるされる。
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講義も用意されているが、学生参加・熟議型の授業が中心になる。熟議を実りゆたかなものにするために必須の要件は4つ。教科書を熟読・再読すること。そして授業時間内での意見交換に積極的に参加すること、授業中に交わされる対話の中に含まれる大切なポイントをのがさずにノートにとること、授業を反芻しながらリアクションペーパーを書くこと。この4つのいずれかでも欠けると学習効果は薄くなる。
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担当者名のないものはすべて服部健司と森禎徳によって行われる。
議論の展開、クラス全体の空気や水準等によってスケジュールは柔軟に変更される。今年度は特に、社会の情勢によって大きく影響を受けて、組み立てが変わる。
担当者名のないものはすべて 森禎徳・服部健司によって行われる。
議論の展開、クラス全体の空気や水準等によってスケジュールは柔軟に変更される。 今年度は感染症の動向によって大きく影響を受けて、組み立てが変わりうる。 GUMLSの方に詳細な情報が掲載されるので、リアクションペーパー提出時などにチェックしてほしい。
1-2 4月11日 原 敬「ケーススタディ」 3-4 4月18日 石田安美「自己決定と自律」 5-6 4月25日 ガイダンス「医の倫理学を学ぶ意味・学び方」 7-8 5月2日 「生政治学 (フーコー) 9-10 5月9日 ケーススタディ 11-12 5月16日 ケーススタディ 13-14 5月23日 ケーススタディ 15-16 5月30日 ケーススタディ 17-18 6月6日 ケーススタディ 19-20 6月13日 ケーススタディ 21-22 6月20日 ケーススタディ 23-24 6月27日 小説を読む 25-26 7月4日 小説を読む 27-28 7月11日 ケーススタディ 29-30 7月25日 ケーススタディ
31-32 10月3日 森禎徳「ケア: 教科書を読む」 33-34 10月10日 徳永 純「ケーススタディ」 35-36 10月17日 ケーススタディ 37-38 10月24日 ケーススタディ 39-40 10月31日 教科書理解度テスト 41-42 11月7日 原 敬「ケーススタディ」 43-44 11月14日 ケーススタディ 45-46 11月21日 ケーススタディ 47-48 11月28日 ケーススタディ 49-50 12月5日 田代志門「研究倫理」 51-52 12月12日 ケーススタディ 53-54 12月19日 ケーススタディ 55-56 1月16日 ケーススタディ 57-58 1月23日 ケーススタディ 59-60 1月30日 ケーススタディ
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前期にはよく作られたケースをもとに、後期にはグループごとにつくり出してもらった仮想ケースをもとに、ケーススタディを行うことが中心となる。これには大変な労力がいる。ケースを仮構するにも読み解くためにも教科書レベルの事柄を学んでいてもらう必要がある。授業中には教科書全編の解説はできないから、自室で自分の読解力に応じて時間をかけて読んでほしい。
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以下を組み合わせて総合的に成績評価を行う。
①教科書理解度テスト ②夏期レポート ③ケーススタディテスト ④リアクションペーパー評価 ⑤授業ノート
①~④の平均点が60点未満の場合、あるいは①~④の平均点が60点以上であっても①が35点未満、②が40点未満、③が35点未満、④が50点未満、⑤が50点未満のいずれかの場合に、再試験受験対象者となる。
再試験は以下の4要素からなる総合問題であり、4時間かけて実施される。 1)教科書理解度問題(25点) 2)授業理解度問題(25点) 3)小説読解問題(30点) 4)ケーススタディ問題(20点)から構成される。 再試験は60点以上をもって合格とし、その際いかに高得点であっても評価は「C」となる。ただし、1~4)の合計点が60点以上であっても、いずれかの要素が著しく低得点であった場合は不合格とする。再々試験は実施しない。
レポート・リアクションペーパーの採点基準: 自分の意見をただ言い放つだけのもの、あるいはその正当化を急ぎ、問いそのものの奥行きをさぐろうとしないもの-たとえそれがどんなに言葉巧みでも-には、高い評価はつかない。他人の説の単なる要約紹介、引用に尽きるものについては-それがどれほどの読書量に支えられ、またどれほど多量の文字が綴られていても-最低点である。授業と関わりのないリアクションペーパーの評価も最低となる。 問いをわがことにひきつけているもの、私見にむけられるだろう反論を予想してそれに再び応答しようともがいているもの、自分の思考のすじみちの穴と飛躍、一面性に気づいてそれを埋めようと苦しんだ跡のあるもの、書くことによって自分の内から未知のなにかをひきだそうと、あるいは自分自身のあり方そのものを越えてゆこうとしているもの、には最高点が与えられるだろう。
評価着眼項目: p 授業の理解の的確さ q 思考や論述の論理性と厚み r 視角の広さと批判的反省的姿勢 s 切込みの独創性・感性の鋭さ t 対人関係能力や、他者の心情を推察する能力
より一層具体的にあらわした採点ポイント: A.高得点要素 ユニークな視点 創造的 洞察力に富む 刺激的 探究・挑戦的 横断・綜合的 建設的 問題を浮き彫りにしている 批判的(自説の源泉・範囲・限界に自覚的) 受け売りでない 他の立場を顧慮 反論を予想しこれに応答 B.低得点要素 受け売り 考えたフリしてる見せかけレベル なになには問題であるというだけで探究しようとしていない 教科書レベルの理解が示されていない 自説の開陳に終始 自説の根拠を示さない 対立する観点を顧慮していない C.最低得点要素 視角がかなり狭い 抽象的・図式的にしか考えていない 叙述の展開に論理性が不足・欠落 文が迷走・飛躍 教科書レベルの事項を誤解している 独断的な言いっ放し 主題・問題から逸れた方向に展開 記述が短いか内容が薄く乏しい 自分の頭で考えていない 日本語表現・文法が乱れている
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この授業では知識量は問われない。知識の伝達を目標としてもいない。暗記も必要ない。ここでは、モラル・センスをみがき合うことと、批判的・反省的に考える修練をつむことに最上の価値がおかれる。ここでいうモラル・センスは、「ある社会のなかで通用している、既存の規則や価値観、権威による指示からはみださないように生きる従順さ」を意味しない。むしろ、日常の中であまりに当たり前すぎ目につくためにかえって見のがされてそれとは気づかれないままでいる倫理問題に気がつく、問題発見的な感受性のことである。それは文学的感性と深く関わり合う。 さて、あなたがたの感受性に〈ゆさぶり〉をかけ、自分の知性や価値観への高校生的な素朴な肯定感覚を挫くことがこの授業の第一段階である。その先に、他者をまさに異他なる者として認めてむき合いつづけること、対話しつづけることをあなたがたに求める。その際、何割かのひとは過度に不安になり、一部のひと(例年1-2割くらいか)は教員や授業そのものに反発して「自分を守ろう」とするだろう。けれども、どうか、これまでの自分の殻をいったん脱ぎ壊すときのいっときの不安に耐えてほしい。海辺のあの小さなヤドカリのように。 教員は、医師になろうとするきみたちに、この科目に対して正面からのまっとうな取り組みを求めている。出来が悪く四苦八苦してなんとか単位を修得した一部の先輩は、新入生にこの科目のパスの仕方を伝授して得意になる傾向がかつてはみられた。一方、まっとうに取り組み、力をみずから身につけてゆうゆうと最低限の課題水準をクリアした先輩はそうした悪しきパターナリズムを手控えるはずである。どうか用心してほしい。 まず教科書を早い段階で通読、熟読すること。指定した教科書は、暗記用でなくて、思考力と感性を磨き上げるために編まれている。書かれていることがらを鵜呑みにせずに、疑問をもち、よく考えながら読むこと。 過去の出題傾向をふまえて定型解法パターンを覚え習熟することで入試を通過した学生、とりわけ国語の成績がかんばしくなかった学生、教科書・参考書以外の本を読まない学生は、学び方の変更を早めにすること。
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人間の可能性と有限性, 自由と責任(呼-応可能性 responsibility),価値の多様, 他者 stranger としての患者,傷つきやすさ/傷つけやすさ vulnerability,社会的行為としての医療
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中学・高校で現代国語の成績がふるわなかった学生は、早期に中学生向け国語ドリルなどで、受験テクニック以前の母語運用能力をみがき直しておくこと。一人ひとりのレベルが違う上、授業時間数が限られているので、正課のなかで一人ひとりの(評論文および小説の)読解能力・作文能力を指導することはできない。たとえ答案を開示し減点箇所を説明してみたところで、かかる母語運用能力が突如のびることはありえない。かかる基礎的修練には長時間が必要なので、留意してほしい。母語教育に焦点をしぼった学びのリテラシー(1)、「医系の国語表現」で、しっかり力をつけてほしい。
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学びのリテラシー(1) シェイクスピアを読む 医系の人間学IA IB 現代フランス哲学 現代ドイツ哲学 ヤスパースを読む 論理学入門
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9784839216351
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医療倫理学のABC 第4版
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服部健司, 伊東隆雄 編著
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メヂカルフレンド社
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2018
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大学生協の店舗で販売される。
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9784779504136
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倫理学の地図
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篠澤 和久, 馬渕 浩二 編
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ナカニシヤ出版
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2010
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9784816500541
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哲学入門以前
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川原 栄峰
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南窓社
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1967
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限られた時間しかない授業では徹底的に、感性と想像力、そして思考能力をフル回転させ、議論を交わし重ねていく。この点で、同じ学年同じクラスの中でも個人差が顕著にあらわれる。単なる要領よいパターン暗記で偏差値を上げてきた一部の新入生にとっては、自信喪失の苦痛な時間となるだろう。そこで、クラスの議論についていけるようになるために、また議論のレベルをより一層高めるために、テクスト(第4版 2019年12月補訂版)をめいめい自室で熟読玩味してもらいたい。看護専門学校生用に編まれたものだが、今日の医学科の学生が自習し、多角的なものの考え方を身につける際にも丁度よいレベルの本である。ここ数年の経験がそれを実証している。もっと早くよく読んでおけばよかった、という声が毎年聞かれることをシラバスに明記しておく。
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GUMLS 専門教育 医学部医学科1年 医の倫理学 を参照してほしい。 こちらにリアクションペーパー箱を日にちごとに用意する。
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